生命保険のための医学知識

生命保険会社の査定医長として、日々の
引受と支払査定業務で気付いた病気と
手術について解説して行きます。
最近の担当保険分野は、生命保険、
医療保険、がん保険、団体医療保険、
海外旅行保険、医師賠償責任保険、
就業不能団体信用費用保険など多岐に
わたっています。
査定者や営業担当者の医学知識の向上に
少しでもお役に立てれば幸いです。

薬物依存症の一種で、飲酒などアルコールの摂取によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く囚われ、自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなり、強迫的に飲酒行為を繰り返す精神疾患です。アルコール依存症の大部分が臓器障害として肝機能障害、胃腸障害、心障害、膵障害を伴い、肝炎からアルコール脂肪肝、肝硬変と進む例がもっとも多くなっています。 WHOの疾病分類ICD-10によるアルコール依存症の診断基準は下記のとおりです。過去1年間に3項目以上に該当すればアルコール依存症を疑います。
  1. お酒を飲めない状況でも強い飲酒欲求を感じたことがある。(強制的飲酒欲求)  
  2. 自分の意思に反して、お酒を飲み始め、予定より長い時間飲み続けたことがある。あるいは予定よりたくさん飲んでしまったことがある。  (コントロール障害)
  3. お酒の飲む量を減らしたり、やめたりするとき、手が震える、汗をかく、眠れない、不安になるなどの症状がでたことがある。(離脱症状)  
  4. 飲酒を続けることで、お酒に強くなった、あるいは、高揚感を得るのに必要なお酒の量が増えた。(耐性)
  5.  飲酒のために仕事、付き合い、趣味、スポーツなどの大切なことをあきらめたり、大幅に減らしたりした。  (飲酒中心の生活)
  6. お酒の飲みすぎによる身体や心の病気がありながら、また、それがお酒の飲みすぎのせいだと知りながら、それでもお酒を飲み続けた。(有害な結果が起きても、止められない)
2022年からICD-11が適用される予定となっています。


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アカラシアは、食道と胃をつなぐ食道噴門部の食道括約筋が運動障害を起こす疾患です。食道噴門部の開閉障害もしくは食道蠕動運動の障害で、飲食物の食道通過が困難となります。食道下部平滑筋内のアウエルバッハ神経叢細胞の変性・消失によって、食道の正常な蠕動運動の欠如と噴門部括約筋の弛緩不全が生じ、下部食道における食物の通過障害と食道全体の異常拡張が起こる機能的疾患です。食道アカラシア、噴門痙攣症、特発性食道拡張症などともよばれます。一般に生命予後は良好ですが、栄養障害や誤嚥による肺感染症の合併に注意する必要があります。 

アカラシアは、20~40歳代に多く男女差はありません。神経の変性疾患であるため経過が長く、数年~10年以上続く嚥下障害や胸痛が特徴です。特に冷たい飲み物、精神的ストレスなどの精神的要因により悪化します。持続的な嚥下障害があるため、食物の逆流、嘔吐、胸痛、胸やけ、背中の痛みなどがみられ、また冷たい水や精神的刺激で誘発されて悪くなり、固形物や液体もうまく飲み込めなくなります。

上部消化管造影検査により、噴門部直上のくちばし状変形と狭窄部より口側の辺縁平滑な拡張が見られます。 食道内圧測定検査で、食道蠕動波の消失、嚥下時の下部食道内圧の上昇がみられるときに食道アカラシアと診断できます。

 薬物療法としてニフェジピンなどのCa拮抗薬を投与し経過観察します。症状出現や増悪時にはジアゼパムなどの精神安定剤を併用することも多いです。薬物療法が無効の場合には非観血的拡張術のバルーンによる強制的下部食道拡張術を行います。これは風船で食道を拡張させる術式ですが、再発も起こりやすいです。

外科的治療としては、ヘラーの下部食道筋層切開術、胃底部パッチ閉鎖術(Fundic patch法)、腹腔鏡による下部食道筋層切除・胃底部縫着術などが行われます。アカラシアによる食道の異常拡張が長期間におよぶと食道の炎症や潰瘍を合併することがあります。 

近年、新しい治療法として経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy; POEM)が開発されました。POEMは内視鏡により食道の内側から筋層を切開する手術で、ゴムの輪のように食道を締め付けている食道輪状筋を切開します。POEMでは筋層切開の長さを可及的に延長できるので食道アカラシアのみならず、食道びまん性けいれん症にも適応可能です。以前は先進医療でしたが現在は「K530-3 内視鏡下筋層切開術」として保険診療となっています。 

アカラシアの現症については、経過が長い場合に食道の炎症や潰瘍が起こるため生命保険は軽度条件付、手術の可能性があるため医療保険は部位不担保の条件付となります。外科的治療による手術後の既往症については、後遺症がなく完治していれば術後数年経過後から標準体引受が可能となるでしょう。
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肺アスペルギローマとは、肺の空洞に真菌球(fungus ball)を呈するものです。単純性肺アスペルギローマ(simple pulmonary aspergilloma; SPA)ともいいます。この空洞は、肺結核治癒後や気管支拡張症などによります。当初は無症状に経過することも多いですが、喀血し致命的になることがあるため、空洞切開菌球除去術を行います。
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侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis; IPA)は日和見感染症( opportunistic infection)で,乾性咳嗽、発熱、胸膜痛で発症し、死亡率は55~80%と予後不良の疾患で、アスペルギルス菌糸が、気管支壁を破って近隣の動脈内に浸潤、塞栓性に血管を閉塞し、出血性梗塞をきたす。胸部X線検査では、単発もしくは多発する粒状、斑状の浸潤影、結節影が出現し、その後、内部にLung ball を有する空洞影を形成する。Lung ballは菌糸、好中球、マクロファージが浸潤して壊死した肺組織の塊であり、アスペルギローマにみられる真菌の塊である真菌球(Fungus ball)とは異なります。 空洞は、好中球数が500/μl 以上に上昇すると出現し、また大量喀血は空洞が出現した後、数日以内に起こる可能性が高いと言われています。
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慢性壊死性肺アスペルギルス症(chronic necrotizing pulmonary aspergillosis; CNPA) 肺に結節や浸潤影を伴い、進行が早く、進行性に肺組織が破壊されるものです。IPAの亜急性型といえます 。

これに類似した疾患に、肺に複数の空洞が存在する慢性空洞性肺アスペルギルス症(chronic cavitary pulmonary aspergillosis; CCPA)があります。進行が遅く年単位の経過で空洞が拡大して肺が虚脱します。CNPAとCCPAとの臨床的鑑別は困難で、治療においても明確な差はありません。それゆえにCNPAとCCPAを統合した疾患群として、慢性進行性肺アスペルギルス症(Chronic progressive pulmonary aspergillosis; CPPA)という疾患概念が提唱されています。

CNPAでは、空洞の有無を問いません。
CPPAでは、空洞があるものの、真菌球の有無は問いません。

(参考)
深在性真菌症のガイドライン作成委員会編「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」協和企画 2014年


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アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis; ABPA)は、アスペルギルス(A. fumigatus)の抗原に対する過敏反応です。治療しないと、気管支拡張症と肺線維症を起こします。
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肺アスペルギルス症は、アスペルギルス属(Aspergillus)の真菌によって引き起こされる肺の感染症です。アスペルギルスは、自然界に広く分布している真菌の1種で、通常は病原とはなりにくい菌ですが、免疫低下状態などにあるヒトに日和見感染症を起こします。また、肺に空洞がある場合にも感染を起こしやすいです。過去に肺の病気によって形成された肺の空洞など、体内の空洞のある部分を侵し、外耳道や副鼻腔に感染症が生じることもあります。真菌のアスペルギルス・フミガートス(A. fumigatus)が原因で起こるものもあります。このアレルギーによって引き起こされる病型がアレルギー性気管支肺アスペルギルス症です。次のように疾患分類されています。

慢性肺アスペルギルス症
肺アスペルギローマ(SPA)
慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)
慢性空洞性肺アスペルギルス症(CCPA)
慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA) 
侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
表在性アスペルギルス症
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好酸球性肺炎は、肺好酸球浸潤症候群ともいい、肺や血流の中に増加した多数の好酸球が現れる肺疾患の総称です。多くの炎症反応やアレルギー反応の際に好酸球が増加し、たとえば気管支喘息では特定の好酸球性肺炎が高い頻度で合併します。症状は軽症の場合もありますが、急性では血液中の酸素濃度が著しく低下し、放置すると数時間から数日で急性呼吸不全を起こします。また、慢性は数週間から数カ月間かけてゆっくりと進行し、重症化します。

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風邪は、主にウイルスの感染による上気道(鼻腔や咽頭等)の炎症性の病気で感冒ともいい、咳嗽・咽頭痛・鼻汁・鼻づまりなどの局部症状、および発熱・倦怠感・頭痛など全身症状が出現した状態のことをいいます。かぜ症候群ともいいます。

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肺線維症とは、呼吸によりガス交換を行う肺胞に線維組織が増えて呼吸困難となる病気です。初期症状は労作時の息切れや呼吸困難ですが、広範囲に肺の線維化が起きると血液中の酸素が慢性的に不足し低酸素状態に陥ります。さらに悪化すると酸素吸入が必要となります。抗がん剤などの薬物の使用によって起こる薬剤性肺炎、塵肺、アレルギー性肺炎、肺結核、膠原病などが原因となりますが、原因不明のものもあります。

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